BCPは「作ってある」だけでは、子どもを守れない。

―豪雨対応から考える、保育施設の「使えるBCP」

このところ、全国各地で大雨による被害が相次いでいます。

私も仕事の中で、実際に豪雨の影響を受けた複数の保育施設について、当日の対応記録とBCP(事業継続計画)を照らし合わせて検証する機会がありました。

※本稿では、守秘義務の観点から法人名、施設名、地域、具体的な被害状況、個別の対応内容などは記載していません。実際の支援から得た気づきを一般化してまとめています。

そこで改めて感じたことがあります。

BCPは、「作ってあること」と「使えること」の間に、かなり大きな距離があります。

1.災害はBCPに書いた順番では起きない

BCPを見ると、多くの場合、

「警報が出たら情報収集」
「状況に応じて避難」
「保護者へ連絡」
「法人本部へ報告」

といった手順が整理されています。

もちろん必要です。

ところが実際の豪雨では、そんなにきれいには進みません。

雨は強くなったり弱くなったりする。道路状況も変わる。公共交通機関も影響を受ける。保護者のお迎えにも時間差が生じる。

そして保育施設には、その瞬間にも子どもたちがいます。

「避難するか」
「園内にとどまるか」
「保護者への引き渡しをどうするか」

判断を一つ間違えれば、むしろ移動することによって危険が高まる場合さえあります。

つまり、必要なのは「災害が起きたら○○する」という手順書だけではありません。

状況が変化する中で、誰が、何を見て、どの段階で意思決定するのか。

ここまで決めて初めて、BCPは現場で使えるものになります。

2.重要なのは「避難先」より「避難を決める条件」

たとえばBCPに、

「○○へ避難する」

と書かれていたとします。

一見すると十分に見えます。

しかし実際に必要なのは、その前です。

いつ避難するのでしょうか。

警戒レベルなのか。
河川や内水氾濫の情報なのか。
園周辺の道路状況なのか。
行政からの避難情報なのか。

さらに、

「誰が最終判断するのか」

も重要です。

園長が不在だったらどうするのか。
本部と連絡がつかなかったらどうするのか。

災害時に、その場でゼロから相談している時間はありません。

だからBCPには、行動だけでなく「判断基準」と「判断者」まで設計しておく必要があります。

3.保育施設特有の難しさは「迎えに来てもらえば終わり」ではないこと

保育施設のBCPには、一般企業とは違う難しさがあります。

子どもを預かっていることです。

大雨になったからといって、すぐに全員を帰宅させられるわけではありません。

保護者自身が職場から移動できないこともあります。

交通機関が止まるかもしれません。

道路が冠水していれば、むしろ「迎えに来てください」という連絡が保護者を危険にさらす可能性もあります。

だから、

「いつ迎えを依頼するか」

だけでは足りません。

「迎えを依頼しない方が安全なのはどんな場合か」
「最後の一人が残った場合、誰が対応するか」
「職員自身の帰宅困難をどう扱うか」
「翌日の開園判断を誰がいつ行うか」

まで考えておく必要があります。

BCPとは災害発生直後だけの計画ではなく、発災前から翌日以降までの時間軸を設計するものなのだと思います。

4.実際に起きた災害は、最高のBCP訓練になる

今回、実際の対応記録とBCPを照合していて、非常に重要だと感じたことがあります。

それは、

「BCPに書いてあったか」だけを評価しないことです。

むしろ見るべきなのは、

「現場では実際に何が起きたか」
「職員はどこで迷ったか」
「どの情報が足りなかったか」
「誰への連絡に時間がかかったか」
「BCPを見なくてもできたことは何か」
「逆に、BCPがあってもできなかったことは何か」

です。

この差分こそが、BCP改訂の材料になります。

訓練で想定した災害と、本物の災害は違います。

だからこそ実際の災害対応が終わった後には、

対応記録 → 振り返り → BCP改訂 → 研修 → 訓練

までを一つのサイクルとして回すべきです。

BCPを改訂して共有フォルダに保存して終わり、ではありません。

5.BCPは「防災担当者の書類」ではなく、組織の意思決定システム

内閣府は風水害に関する避難情報のガイドラインを整備し、2026年3月にも改定しています。また、BCPについても「策定」だけではなく、その運用や実効性を高める方向で検討が続いています。

私は福祉・保育法人の支援をする中で、BCPもマニュアルも内部監査も、別々の仕事ではないと考えるようになりました。

災害が起きる。

記録する。

振り返る。

BCPを直す。

職員に伝える。

訓練する。

そして、本当にできるかを確認する。

この循環があって初めて、BCPは「書類」から「仕組み」に変わります。

特に保育施設では、守らなければならないのは事業だけではありません。

目の前にいる子どもたちの安全と、その子どもを迎えに来る保護者、そして働いている職員の安全があります。

だから私は、BCPを作るときに最初に確認したい問いは、

「BCPはありますか?」ではない

と思っています。

「もし今日、この地域で想定を超える雨が降ったら、誰が、いつ、何を根拠に決めますか?」

その問いに、園長だけではなく、その場にいる職員が答えられるか。

そこから、本当に使えるBCPづくりが始まるのではないでしょうか。

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