事故報告書を集めるだけでは、組織は安全にならない。―福祉・保育現場の「事故」を組織学習に変える方法

福祉・保育の現場を支援していると、「事故報告書をどう改善したらよいでしょうか」という相談を受けることがあります。

発生日時、場所、状況、原因、対応、再発防止策。必要な項目を整理し、書式を整える。もちろん大切です。

ただ最近、私はそれだけでは足りないと強く感じています。

事故報告書をきれいに作ることと、事故が減ることは同じではないからです。

1.報告書を書いたところで仕事を終わらせない

事故が起きると、現場では当然さまざまな対応が必要になります。

子どもや利用者の状態確認、家族への連絡、必要に応じた受診、管理者への報告、行政への報告。そして事故報告書を作成し、再発防止策を記載します。

ここまでは多くの法人で仕組みがあります。

問題は、その後です。

報告書が共有フォルダに保存され、「今後は十分注意します」「職員間で共有します」と記載されて終了してはいないでしょうか。

私は最近、複数の福祉・保育法人で安全管理に関わる中で、事故報告書そのものよりも、報告された情報がその後どう使われているかを見るようになりました。

2.「誰が悪かったか」だけでは再発防止にならない

事故が起きると、どうしても当事者の行動に目が向きます。

「なぜ確認しなかったのか」
「なぜその場を離れたのか」
「なぜルールを守らなかったのか」

もちろん、個人の判断や行動を確認することは必要です。服務規律上の問題があれば、それとは別に適切な対応もしなければなりません。

しかし安全管理という視点では、もう一段掘り下げる必要があります。

たとえば、

「その確認を一人の注意力に依存する業務設計になっていなかったか」

「同じ時間帯に複数の業務が集中していなかったか」

「マニュアルは存在していても、実際の現場で使える状態だったか」

「管理者はリスクを事前に把握できていたか」

という問いです。

人のミスをゼロにする仕組みではなく、人がミスをしても重大事故になりにくい仕組みをつくる。

ここまで考えて、初めて再発防止になります。

3.事故情報は「1件」ではなく「束」で見る

もう一つ大切なのは、事故報告を1件ずつ処理しないことです。

1件だけを見れば偶発的な事故に見えても、10件、50件、100件と並べると傾向が見えてきます。

時間帯に偏りはないか。
特定の場面で多く発生していないか。
経験年数との関係はどうか。
管理者不在時に増えていないか。
同じ再発防止策が何度も書かれていないか。

特に私が気になるのは、「職員間で共有する」「今後注意する」という再発防止策が何度も登場する状態です。

同じ対策を書き続けて同じ種類の事故が起きているなら、それは個人の注意力ではなく、仕組みの問題である可能性があります。

事故報告は「記録」ではなく、組織に蓄積されるデータです。

4.事故・研修・マニュアル・監査を一本につなげる

そこで今、私が法人支援の中で考えているのが、

事故 → 分析 → マニュアル → 研修 → 現場確認 → 内部監査 → 改善

という循環です。

事故分析から「送迎時の確認」が弱いと分かったら、送迎マニュアルを確認する。

マニュアルを直したら、職員研修をする。

研修をしたら、「受講しました」で終わらせず、管理者が現場で実践されているか確認する。

そして数か月後、内部監査で定着状況を見る。

そこで新しい課題が見つかれば、再び改善する。

こうなると、事故報告書は単独の書類ではなくなります。

研修計画にもつながり、マニュアル改訂にもつながり、管理者育成にもつながり、内部監査にもつながります。

5.安全管理は「書類管理」ではなく経営そのもの

福祉や保育の法人には、実に多くの書類があります。

事故報告書、ヒヤリハット、BCP、虐待防止マニュアル、身体拘束適正化指針、研修記録、内部監査記録……。

これらを一つずつ整備すると、どうしても「書類を作る仕事」になってしまいます。

でも、本来は全部つながっています。

事故から学び、仕組みを変え、職員が学び、管理者が確認し、その仕組みが機能しているかを監査する。

私は最近、安全管理とは担当部署の仕事ではなく、組織が自分自身から学習するための経営システムなのだと考えるようになりました。

事故をゼロにすることは難しい。

だからこそ重要なのは、事故が起きたときに、その出来事を一人の失敗として消費しないことです。

一つの出来事から、組織全体が一つ賢くなる。

そんな仕組みをつくることが、本当の意味での再発防止なのではないでしょうか。

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