児童発達支援事業所併設型の保育園運営で、なぜ「アセスメント」が重要なのか

近年、保育園や認定こども園に児童発達支援事業所を併設する形態が増えています。

弊社も、こうした事業所の立ち上げや、高齢者施設と障害者施設などの複合運営に関わる機会が増えてきました。

これから先は、保育園と児童発達支援という組み合わせだけではなく、高齢者福祉、障害福祉、子育て支援、地域交流など、複数の機能が一つの場所に共存する福祉施設がさらに増えていくのではないかと考えています。

制度によって人を分けるのではなく、一つの地域、一つの場所の中で、多様な人が自然に過ごしている。

私は、そんな施設が増えてほしいと思っています。

一方で、建物を一緒にしたり、保育園と児童発達支援事業所を併設したりすれば、それだけで「インクルーシブな施設」になるわけではありません。

実際に運営していくうえでは、さまざまな課題が生まれます。

そして、その課題を乗り越えていくために非常に重要になるものの一つが、アセスメントだと考えています。


併設すると、まず「運営の違い」が目につきます

保育園と児童発達支援事業所を併設すると、当然ながら運営上の課題が生じます。

そもそも、異なる制度、異なる事業、異なる専門的バックグラウンドを持った職員が、同じ施設の中で働くことになります。

そのため、実際の現場では、

  • どの時間を一緒に過ごすのか
  • 保育園と児童発達支援、それぞれの職員がどこまで関わるのか
  • 一方の職員だけに業務負担が偏っていないか
  • 記録や会議、送迎などを誰が担うのか
  • それぞれの事業に必要な業務時間をどう確保するのか

といった問題が起こります。

そして、職員の不満もこうした部分に集中しがちです。

「こちらばかり負担している」

「児発の職員は保育に入ってくれない」

「保育園側には児発の業務が分からない」

反対に、

「児発には個別支援計画やモニタリング、記録の時間も必要なのに理解してもらえない」

といった声が出てくることもあります。

これらは決して軽視してよい問題ではありません。職員人数的にはマジョリティになる保育園側に全てを合わせたら良いというわけでもありません。

勤務設計、役割分担、職員配置、情報共有の方法などは、併設型施設を持続させていくうえで重要な経営課題です。

ただし、こうした運営上の問題に向き合っているうちに、もっと大切な問いが置き去りになってしまうことがあります。

それは、

そもそも、私たちは何のために保育園と児童発達支援事業所を併設しているのか。

という問いです。


「一緒にいること」そのものが目的ではありません

同じ建物にいること。

同じ園庭で遊ぶこと。

保育園の子どもと児童発達支援を利用する子どもが一緒に活動すること。

もちろん、それらにも大きな意味があります。

しかし、私はそれだけでインクルーシブな施設になるとは考えていません。

併設する大きな価値の一つは、異なる専門性を持つ職員が、一人の子どもについてそれぞれの視点を持ち寄れることにあります。

保育士には、集団生活の中で見えている姿があります。

児童発達支援の職員には、個別の関わりの中だからこそ見える姿があります。

さらに、心理職、言語聴覚士、作業療法士、理学療法士などの専門職が関われば、発達や身体、コミュニケーションなど、また異なる角度から子どもを見ることができます。

そこで必要なのは、

「どちらの見方が正しいのか」を決めることではありません。

それぞれが見えている情報を持ち寄り、一人の子どもについて理解を深めていくことです。

私は、ここにこそ併設型施設の大きな価値があると思っています。

そして、その土台になるのがアセスメントです。


同じ子どもを、保育と児童発達支援でどう見るのか

例えば、ある子どもの行動を見て、

「集団活動に参加できない」

と捉える人もいれば、

「興味のある対象への集中が強い」

と捉える人もいるかもしれません。

また、

「指示が入らない」

という表現と、

「言語情報だけでは理解しにくい」

という表現では、その後の支援の方向性は大きく変わります。

同じ行動であっても、何を背景にその行動が起きているのかという「見立て」が変われば、支援も変わります。

インクルーシブな環境で重要なのは、子どもを一つの見方に当てはめることではありません。

複数の視点から得られた情報を持ち寄り、その子どもの発達や生活を総合的に理解していくことです。


アセスメントには「フォーマル」と「インフォーマル」があります

アセスメントというと、発達検査などをイメージする方も多いかもしれません。

もちろん、それも重要な方法の一つです。

アセスメントには、大きく分けてフォーマルアセスメントインフォーマルアセスメントがあります。

フォーマルアセスメントは、標準化された検査や尺度などを用いて、一定の基準に沿って子どもの状態を把握する方法です。

一方、インフォーマルアセスメントには、

  • 日常生活や遊びの中での観察
  • 保護者からの聞き取り
  • 保育者や支援者からの情報
  • 子ども同士の関係性
  • 食事、着替え、排泄など生活場面での様子
  • 過去の記録や支援経過

などがあります。

特に、保育園と児童発達支援事業所が一緒にある環境では、このインフォーマルな情報の豊かさが非常に大きな価値になります。

検査場面では見えない姿を、日常の中では見ることができます。

集団の中では難しく見えることが、個別の関わりではできているかもしれません。

反対に、個別場面では分からなかった社会性や人との関わり方が、保育園での生活の中ではよく見えることもあります。

併設しているからこそ集められる情報があります。

その情報をどう統合するかが重要なのです。


アセスメントは「一度やったら終わり」ではありません

アセスメントは、子どもが利用を開始したときに一度実施し、その結果を個別支援計画に転記して終了するものではありません。

子どもは日々変化します。

環境によっても姿は変わります。

そのため、

観察する

仮説を立てる

支援する

子どもの反応を見る

もう一度考える

という循環が必要になります。

つまりアセスメントとは、特別な日に行う「検査」だけではなく、日々の支援そのものに組み込まれている営みでもあります。


ここから先は、経営の問題です

私は、併設型の施設運営を考える際に、この部分が非常に重要だと感じています。

アセスメントを丁寧に行うには、当然ながら時間と人手が必要です。

子どもを観察する時間。

職員同士で情報を共有する時間。

保護者から話を聞く時間。

記録を読み返す時間。

異なる専門職が、それぞれの見立てを持ち寄る時間。

そして、その情報を支援計画に反映する時間。

これらはすべて「業務」です。

ところが事業を立ち上げる際には、

  • 何人の子どもを受け入れるか
  • 何人の職員を配置するか
  • 一日の支援時間をどうするか
  • 送迎をどうするか

といった、直接的に見えやすい業務は設計されても、アセスメントに必要な時間が十分に設計されていないことがあります。

すると職員は、子どもへの直接支援を行いながら、隙間時間で記録を書き、勤務終了後に情報共有をし、何とか個別支援計画を作ることになります。

これでは、アセスメントが深まらないだけではありません。

職員自身も疲弊していきます。


アセスメントの質は「職員の能力」だけでは決まりません

アセスメントが十分にできていないとき、

「職員の専門性が足りない」

と考えてしまうことがあります。

もちろん、専門職として学び続ける必要はあります。

しかし、それだけではありません。

例えば、

30分のケース検討を勤務時間のどこに置くのか。

保育士と児童発達支援職員が情報交換できる時間を誰が確保するのか。

一人の子どもについて複数の視点を統合する役割を誰が担うのか。

こうしたことは、個々の職員の力量だけでは解決できません。

組織設計の問題です。

優秀な職員を採用すれば自然に解決するものでもありません。

だからこそ、併設型施設を設計するときには、職員配置だけでなく、

「専門職同士が一緒に考えるための時間」をどう確保するか

まで考えておく必要があります。


インクルーシブな施設には「共通の見立て」が必要です

保育園と児童発達支援事業所を併設する意味は、単に同じ敷地に二つの制度が存在することではありません。

私は、

一人の子どもを、制度を越えてみんなで理解できること

に、その価値があると思っています。

そのためには、

保育園のアセスメント
児童発達支援のアセスメント

を別々に存在させるのではなく、互いの情報をどうつないでいくのかを考えなければなりません。

「児発の子どもだから児発職員が見る」

でもありません。

「保育園の子だから保育士が見る」

でもありません。

同じ地域で生活している一人の子どもとして、発達、生活、遊び、人間関係、家庭環境などを多面的に見ていく。

そして、そのためにそれぞれの専門性を持ち寄る。

それが、インクルーシブな施設運営の土台になるのではないでしょうか。


運営上の違いを調整することも、「子どもを理解するため」です

もちろん、現実の施設運営では、勤務時間や業務負担、役割分担などの調整から逃げることはできません。

むしろ、そこを曖昧にすると職員間の不満は大きくなり、協働そのものが難しくなります。

だから、運営面の整備は必要です。

ただ、その調整を行うときにも、

何のために調整するのか

を見失わないことが重要だと思います。

保育園と児童発達支援の職員が同じ時間に働くこと自体が目的ではありません。

職員間の不公平感をなくすことだけが目的でもありません。

最終的には、

異なる専門性を持つ人たちが、一人の子どもの理解と支援のために協働できる状態をつくること

が目的です。

この共通目的がなければ、併設型施設は二つの事業が同じ建物に入っているだけになってしまいます。


併設型施設をつくるなら、「時間」まで設計する

これから、児童発達支援事業所を併設する保育園や、複数の福祉機能を持つ施設はさらに増えていくと思います。

その際に、

「どんな部屋をつくるか」

「どんな専門職を配置するか」

「どんなプログラムを提供するか」

だけではなく、もう一つ設計してほしいものがあります。

それが、

子どもを理解するための時間です。

アセスメントのための時間。

職員同士が話す時間。

保護者と対話する時間。

支援を振り返る時間。

これらを余った時間で行うのではなく、最初から事業運営の中に組み込んでおく。

そして私は、併設型施設ではもう一つ、

「一緒に保育する時間」だけでなく、「一緒に子どもを理解する時間」を設計すること

が、とても重要だと思っています。

インクルーシブな施設の質を左右するのは、豪華な設備でも、新しいプログラムでもありません。

もしかすると、

一人の子どもについて、異なる専門性を持つ人たちが一緒に立ち止まり、考えられる時間があるか。

そんな、とても地味なことなのかもしれません。

しかし私は、そこにこそ児童発達支援事業所併設型の保育園をつくる本当の意味があると考えています。

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