最近、いくつかの福祉事業者と仕事をしながら、繰り返し考えていることがあります。
福祉事業者こそ、もっと「小さな研究」をしたらいいのではないか。
研究というと、大学や研究者が行うものを想像するかもしれません。
論文を書く。統計解析をする。学会で発表する。
もちろん、それも研究です。
でも、私が考えているのはもっと小さなものです。
たとえば保育園なら、
「この半年、園庭での活動を増やしたことで、子どもの遊び方はどう変わっただろう?」
介護事業所なら、
「地域住民も参加できる活動を始めたことで、利用者と地域の関係は変わっただろうか?」
児童発達支援なら、
「この支援を続けたことで、子どもの生活にどんな変化があっただろう?」
こんな問いから始めます。
1.福祉現場には、すでに大量のデータがある
実は福祉の現場は、ものすごい量の記録を持っています。
保育記録、支援記録、事故報告、ヒヤリハット、利用者アンケート、自己評価、面談記録、研修アンケート。
問題は、データがないことではありません。
たくさん記録しているのに、それぞれが別々に存在していることです。
行政に提出するため。
監査に備えるため。
会議で報告するため。
記録すること自体が目的になってしまうと、せっかく蓄積した情報が組織の学びになりません。
そこで、一つだけ「問い」を置いてみます。
すると、今までバラバラだった記録の見え方が変わります。
2.「良かったと思う」から一歩進む
福祉の仕事では、「良かった」という言葉をよく使います。
この活動をやって良かった。
この研修をやって良かった。
地域交流をやって良かった。
もちろん、職員の実感は大切です。
ただ、そこで一度、
「何を見て、良かったと判断したのだろう?」
と考えてみたいのです。
子どもの発言が変わったのか。
遊びの種類が増えたのか。
利用者の外出が増えたのか。
家族からの相談内容が変わったのか。
職員の行動が変わったのか。
ここまで来ると、「感想」が「仮説」に変わり始めます。
3.大きな研究でなくていい
たとえば、ある研修を行ったとします。
通常なら終了後にアンケートを取ります。
「満足しましたか」
「理解できましたか」
これも必要です。
でも、本当に知りたいのはその先ではないでしょうか。
研修から3か月後、現場の行動は変わったのか。
これなら、小さな研究になります。
研修前に簡単な質問をする。
研修を実施する。
3か月後に同じ質問をする。
管理者にも変化を聞いてみる。
それだけでも、「研修を実施しました」から、
「この研修によって何が変わったのか」
へ進めます。
完璧な研究設計でなくても構いません。
まず問いを持つことです。
4.自己評価も事故報告も「研究材料」になる
この考え方をすると、法人の中にあるいろいろな仕組みがつながってきます。
自己評価は、行政対応のためだけに行うものではありません。
今年と来年を比較すれば、組織の変化を観察できます。
事故報告も同じです。
件数だけを見るのではなく、
「どんな時間帯に多いのか」
「同じ種類の事故が繰り返されていないか」
「マニュアルを変えた後に何が変わったか」
を見る。
採用活動なら、
「どんな発信をしたときに、どんな人が応募してきたのか」
を見る。
すべて、小さな研究になります。
5.実践を、その法人の知識にする
福祉業界では、よく「好事例」が紹介されます。
先進法人を視察する。
研修で事例を聞く。
他法人の仕組みを取り入れる。
もちろん大切です。
でも、それと同じくらい価値があるのが、
自分たちの実践から、自分たちの知識をつくること
だと思います。
ある法人でうまくいった方法が、別の法人でも同じように機能するとは限りません。
地域も違う。
職員も違う。
利用者も違う。
組織文化も違います。
だからこそ、
問いを立てる。
やってみる。
記録する。
比べる。
話し合う。
また変えてみる。
この小さな循環を回していく。
私はこれを、福祉事業者の「小さな研究」と呼びたいと思っています。
そして、この習慣が組織に根づくと、職員の立ち位置も少し変わるはずです。
決められた支援を実行する人から、
目の前の人を観察し、自分たちの実践を問い直す人へ。
管理者も、本部も同じです。
「正解を教える人」ではなく、「一緒に問いを持つ人」になる。
福祉の現場には、毎日ものすごい数の出来事があります。
それをただ過ぎていく一日にするのか。
記録として保存するのか。
それとも、次の実践を少し良くする知識に変えるのか。
大規模な研究でなくていいと思います。
一つの問いから始まる、小さな研究を。
福祉事業者には、その材料がすでに毎日積み上がっています。
コメント