福祉法人の“任せられない構造”
多くの小中規模福祉法人では、理事長や施設長に決裁権が集中しています。
日々の意思決定のほとんどが「理事長専決」。もちろん、責任感と覚悟ゆえの集中構造ではありますが、これが続くと現場は動けず、疲弊します。
実際に支援先でも、「分かってはいるけど任せられない」という声を多く聞きます。
そこには、制度や人材の問題だけでなく、“信頼をどう育てるか”という構造的テーマが横たわっています。
「任せにくいもの」こそ、任せ方を設計する
福祉法人で任せにくい業務とは、たとえば次のような領域です。
- 採用や人事など“経営の根幹”に関わること
- 利用者対応など“信用リスク”の高い対応
- 対行政・監査など“失敗できない”領域
これらを丸ごと任せるのは確かに怖い。
だからこそ、いきなり手放さず、段階的に任せていく設計が必要です。
任せるとは、放すことではなく、任せるプロセスを共につくること。
“どう任せるか”を一緒に考える段階を経るだけで、任せやすさは大きく変わります。
現実的処方①:まずは「信頼できる一人」を使う
多くの法人には、理事長が心から信頼している一人がいます。
事務長、副理事長、ベテラン施設長──立場は違っても、“この人だけは信じられる”という存在。もしくは”この人なら、ある面だけは任せられる”という人、ケースがあるように思います。
最初に権限移譲を試みる相手は、この「一人」で十分です。
その人を通して、権限移譲の“型”を作る。
「任せてもうまく回る」を一度でも経験すれば、経営者の中に“任せる成功体験”が積み上がります。
福祉法人では、信頼の再現性を設計できた時点で、本部構築の第一段階が完了すると言ってよいでしょう。
現実的処方②:任せる内容を“粒度”で分ける
権限を移すとき、いきなり「採用業務全部を任せる」といった渡し方をすると、どちらも不安になります。
Live aliveでは、次のように“粒度”で切り分けていきます。
| フェーズ | 任せ方の粒度 | 経営者の関与 |
|---|---|---|
| ステップ1 | 実務の判断を任せる(例:面接調整・求人票作成) | 確認・承認中心 |
| ステップ2 | 判断基準を任せる(例:採用可否・評価コメント) | 助言・共有中心 |
| ステップ3 | 戦略設計を任せる(例:採用方針・人事制度改定) | 伴走・議論中心 |
段階的に任せることで、経営者の“見えない不安”を減らし、組織に新しいリーダー層が育ちます。
現実的処方③:「語り合い」を仕組みにする
前回の権限移譲の記事でも触れたように、権限は“権限表”ではなく“対話”で決まるもの。
任せる過程でも、定期的に語り合う時間を設けることが重要です。
- 「ここまでは自分で判断していい?」
- 「この件はどこまで理事長に報告すべき?」
- 「この判断がズレたらどうリカバーする?」
こうした対話の積み重ねが、権限の“実効性”を高めます。
信頼は、ルールでなく語り合いの習慣から生まれるのです。
最後に:任せるとは、法人の未来を分かち合うこと
任せにくいものほど、任せたときに法人は伸びます。
理事長が持つ“意思決定の重み”を分かち合える人を育てることは、組織の持続可能性そのものです。
Live aliveでは、こうした「任せ方の設計」と「信頼構築の対話」を支援しています。
表ではなく、会話から始まる権限移譲。
それが、次の世代に法人を引き継ぐための、最も現実的で優しい経営です。
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