興味を持たせるには、“なれるかも”と思わせること──モデリングと自己効力感の視点から
「管理職になりたい人がいない」
多くの福祉法人で聞かれるこの悩みは、制度や待遇の問題だけではありません。
「自分には無理だと思っている」という、ある種の諦めや自信のなさもあると思うのです。
人が新しい役割に挑戦するとき、必要なのは「なりたい気持ち」だけではなく、
「なれそうだ」という感覚=自己効力感(self-efficacy)です。法人側はどうしても「目指したい人」を増やすための誘引(インセンティブ)施策の設計に意識が行ってしまいますが、誘引施策設計後に、そこに到達できそうな気がするという達成期待(発達の足場掛け)が必要なのです。
自己効力感とは?
心理学者アルバート・バンデューラは、自己効力感を「ある課題に対して、自分がうまくやれるという信念」と定義しました。
この感覚があると、人は自発的に行動し、困難にも挑戦できます。
逆に自己効力感が低いと、「どうせ自分には無理」「誰かがやればいい」と引いてしまうのです。
自己効力感を高める4つの要素と、福祉現場での応用
① 成功体験(Mastery Experiences)
もっとも効果が高いのは、小さな成功の積み重ね。
いきなり「管理職を目指せ」ではなく、まずは“小さなリーダー経験”を積ませることが鍵です。
- 例:係の進行役、研修のファシリテーター、新人育成の担当者 など
「やってみたら思ったよりできた」という体験は、次の挑戦への足がかりになります。
② 代理経験(Vicarious Experiences/モデリング)
自分と似た境遇の人が、少し先を行く姿を見ると、人は「自分にもできるかも」と感じやすくなります。
- 例:数年前まで現場職員だった人が、今は主任としてチームを引っ張っている
- 例:苦労しながらも管理職を頑張っている人のインタビューを読む
重要なのは、“完璧な人”ではなく“努力している途中の人”の姿を見せることです。
モデリング効果は、「自分と重ねられる存在」がいてこそ生まれます。
③ 言語的説得(Verbal Persuasion)
人は、信頼している相手からの声かけによっても、自己効力感を高めることができます。
- 「あなたの気配り、チームにはすごく必要だと思う」
- 「あの対応、主任レベルだったよ」
- 「自分にはできないと思ってるかもしれないけど、あなたならいけると思う」
こうした言葉が、自己イメージを少しずつ書き換えていきます。
“ちゃんと見てくれている人がいる”という安心感も、挑戦への後押しになります。
④ 情動的喚起(Emotional & Physiological Arousal)
緊張や不安が強すぎると、人は本来の力を発揮できません。
逆に、安心して試せる環境があれば、新しい役割にも前向きに向き合えます。
- 管理職を目指す=重責、というイメージが強すぎないようにする
- 試験や昇格面談ではなく、「一度やってみませんか?」というフラットなトーンで関わる
- 安心して失敗できる空気があるかどうかが、挑戦意欲を左右します
「その気にさせる」前に、「なれる気がする」環境を
制度や登用試験の前に、人は“感情”で動きます。
やる気がないわけではない。ただ、やれる自信がないだけ。
だからこそ、“やってみようかな”と思えるような関係性や環境づくりが先なのです。
おわりに
管理職を育てるとは、「管理職研修を受けさせる」ことでも、「適性テストを通す」ことでもありません。
その前に必要なのは、「自分にもできるかもしれない」と思わせる“きっかけ”の連続です。ポイントは連続性です。1年に1回程度の管理職候補研修をやっている程度では不十分です。
小さな成功、身近なロールモデル、信頼ある人からの言葉、安心して試せる環境。
それらの積み重ねが、「なりたい」ではなく、「なれるかも」を生み出し、
福祉現場に未来の管理職を育てていくのです。Live aliveでは、こうした研修の設計・実施もお引き受けしております。お気軽にお問い合わせください。
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