福祉職員が管理職になりたがらない理由①

─大人の発達理論で読み解く“心理的な壁”とは?

1. 「誰も管理職になりたがらないんです…」

多くの福祉事業者の現場で、こんな声を耳にします。

「主任やリーダーに昇格してほしいと伝えると、“無理です”って断られるんです」
「そもそも、管理職=現場から離れる、と思われている」

こうした現象は一部の職場に限らず、福祉業界全体に広く見られる傾向です。これは単なる“意識の低さ”ではなく、「大人の発達段階」や「組織の構造的な要因」に深く関係しています。


2. キーガンの発達理論で見える“管理職の壁”

ロバート・キーガンの成人発達理論では、以下のような段階が示されています:

  • 段階3(社会的な自己):まわりの期待に応えたい、承認されたいという意識が強く、他者に合わせた自己を形成
  • 段階4(自己主導的自己):自分なりの価値観や信念で判断し、他者と異なる立場もとれる

多くの職員は、支援現場にいる中で「相手に寄り添いたい」「現場の一体感を大事にしたい」という価値観を持ち、段階3で安定しているケースが多く見られます。

しかし、管理職として求められるのは、“価値観の衝突”を扱い、調整・判断する段階4以降の自己です。
このギャップが、心理的抵抗となって表れるのです。


3. 管理職=「現場から離れる」という構造的なミスリード

もう一つの要因が、管理職の役割設計そのものです。
現場の職員から見ると、管理職は:

  • 会議にばかり出ている
  • パソコンと睨めっこしている
  • 子どもや利用者と接する時間がない

そんな姿に映っています。

つまり、「やりがい=対人支援」だと感じている人ほど、「管理職になるとそれを奪われる」と無意識に感じてしまうのです。


4. 現場が抱える“育成なき昇格”のツケ

また、育成を飛ばして**「職務命令として昇格させる」慣行**も、敬遠の原因となっています。

  • マネジメントの訓練なしにリーダーにされた
  • 「主任なんだから」が口癖の上司を見てきた
  • 苦労してるのに、評価も処遇も曖昧

こうした職場を見て育った若手職員にとって、「昇格=報われない苦労」という負の記憶が蓄積しているのです。


5. まとめ|管理職になる前提条件が欠けている

福祉業界で管理職を目指す人が少ないのは、本人の資質ややる気の問題ではありません。

  • 発達段階による“内面的な準備不足”
  • 管理職の“誤解された役割像”
  • 育成されずに“放り込まれる構造”

これらが複雑に絡み合い、「やりたくない」という結果を生んでいるのです。


次回は、キャリアアンカー(シャイン)の理論から、
「そもそも福祉専門職がどんな価値観を大事にしているのか」を掘り下げていきます。

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


関連記事