制度ではなく「構造」から変える
福祉法人の本部構築というと、すぐに「部署を整える」「本部職員の給与改定」「評価はどうする」といった制度面の話に進みがちです。
しかし、制度を整える前にやるべきことがあります。
それが、「業務の棚卸」と「権限線の引き直し」です。
この2つがないまま制度だけを作ると、運用段階でほぼ確実に詰まります。
どの業務を誰が担うのか。どの判断をどのレベルで完結できるのか。
これを整理しない限り、法人は何をやっても“属人経営”から抜け出せません。
現状の課題:みんなが「やってあげている」状態
多くの法人で業務を可視化してみると、次のような構造が浮かび上がります。
- 現場のリーダーが、上司の分の事務を“やってあげている”
- 本部が、現場の依頼処理を“手伝ってあげている”
- 経営者が、管理職の仕事を“見かねて引き取っている”。その逆もまた、よくある話
この「やってあげている」構造が、組織の疲弊を生みます。
優しい人が損をし、業務の責任があいまいになり、改善のPDCAが回らなくなる。
まずは、「誰が何を担っているのか」を”可視化する”ことがすべての出発点です。
Step1:業務の棚卸をする
業務棚卸の目的は、“人を責めること”ではなく、“仕組みの歪みを見つけること”です。
各施設・各職種ごとに、次の視点で書き出していきます。
- 業務の全体像(毎日・毎週・毎月・年次)
- 実際に行っている人(担当者・補助者)
- 本来担うべき人(役職・職責)
- 判断が必要な場面(どのレベルで決裁しているか)
このプロセスで、「現場がやる必要のない業務」「本部(事務担当)が抱えすぎている業務」が見えてきます。
棚卸をするだけでも、組織の“血流の滞り”が見えてくるのです。
Step2:権限線を引き直す
次に行うのは、「どこで意思決定するか」を明確にする作業です。
多くの法人では、意思決定の権限が曖昧です。
現場で判断してよいことを、わざわざ経営者に上げている。
逆に、法人全体の方針を、施設単位で独自に変えてしまっている。
権限線を明確にすると、以下のような改善が起こります。
- 経営者が本来のマネジメントに集中できる
- 現場が自律的に動ける
- 意思決定のスピードが上がる
この“線引き”を曖昧にしたままでは、どんなに制度を整えても現場は変わりません。
Step3:本部が担うべき業務を再定義する
本部とは、現場の上位機関ではなく、“支援機関”です。
そのため、業務範囲を「何を支援し、何を手放すか」で定義することが重要です。
具体的には次のような分担が現実的です。
| 項目 | 本部の役割 | 現場の役割 |
|---|---|---|
| 採用 | 戦略・媒体選定・面接設計 | 候補者対応・現場見学 |
| 人事 | 評価制度設計・給与テーブル管理 | 評価面談・日常指導 |
| 広報 | ブランド戦略・記事企画・SNS運用 | コンテンツ提供・地域発信 |
| 研修 | 研修体系の設計 | 現場実施・フォローアップ |
この整理を進めることで、法人全体の生産性が一気に上がります。
まとめ:本部構築は「引き算」から始まる
本部を作るとは、何かを新しく足すことではありません。
最初にやるべきは、余分な仕事を減らし、権限を整理し、現場を軽くすること。
そのうえで、本部が担う“支援のライン”を描くことです。
制度は後からで構いません。
構造が変わらなければ、制度は形だけになります。
「業務の棚卸と権限線の引き直し」──この地味な作業こそ、法人の未来をつくる第一歩です。
コメント